【第27回】植物の状態を見ながら環境を変える
センサー、自動制御、AIと人の役割
こんにちは。UnderSOIL(アンダーソイル)の野口です。
前回は、温度、湿度、CO₂、空気の流れを、栽培壁全体で整える考え方をご紹介しました。
植物が必要とする水や光は、毎日同じではありません。気温や湿度だけでなく、作物の種類、生育段階、葉の広がり方によっても変化します。
グリーンシェルターでは、施設の環境を測るだけでなく、植物が実際にどのような状態にあるかを確認し、その情報を灌水、照明、空調などの調整へ戻します。
今回は、植物の状態を見ながら環境を変える仕組みと、自動制御、AI、人の役割を整理します。
測る、判断する、動かすを一つにつなぐ
植物工場には、温度、湿度、CO₂、光、水温、pH、EC、タンク水量、流量など、確認すべき項目が数多くあります。
ただし、数値を画面に表示するだけでは、環境は変わりません。
センサーが状態を測り、管理システムが設定範囲や栽培条件と照らし合わせ、照明、灌水、空調、除湿、CO₂供給などを動かします。運転結果は記録され、設定範囲を外れた場合には管理者へ通知します。
グリーンシェルターでは、この「測定・判断・制御・記録」を一つにつなぎ、管理者が施設内にいない時間も、栽培環境を継続して確認します。

最大四つの区画を、別々の条件で管理する
一つの施設で複数の作物を育てる場合、すべてを同じ設定で動かすとは限りません。
葉物野菜、ハーブ、育苗中の苗、収穫前の作物では、必要な照明、灌水、温度、湿度が異なります。
グリーンシェルターに組み合わせる管理システムでは、最大四つの独立した栽培区画を、それぞれ異なる条件で運転できます。区画ごとに作物、照明時間、光の強さ、灌水量、温湿度、CO₂などを設定し、生育段階に合わせて切り替えます。
区画を分けることで、一つの施設内で複数の作物を育てたり、同じ作物を異なる時期に植えて、収穫時期をずらしたりする計画も立てやすくなります。
ただし、区画が増えれば、配管、バルブ、照明、センサー、作業動線も複雑になります。販売計画や管理人数を確認し、必要な区画数を決めることが重要です。

決められた時刻ではなく、植物の反応から水を届ける
一般的な自動灌水では、あらかじめ決めた時刻や培地の水分量をもとに、水を供給します。
しかし、培地に水分があっても、植物が十分に吸収できているとは限りません。反対に、植物がまだ水を必要としていない段階で灌水すれば、培地が過湿になることもあります。
グリーンシェルターでは、環境センサーに加え、植物そのものの反応を読み取るセンサーを組み合わせられます。
葉の張り、茎の電気的な変化、樹液の流れなどを確認することで、植物が水を必要としている状態や、灌水した水を実際に吸収したかを捉えます。
すべての植物へセンサーを取り付けるのではありません。区画の状態を代表する位置から指標となる植物を選び、その反応を区画全体の灌水制御へ反映します。
これにより、単にタイマーで水を送るのではなく、植物の状態に合わせて灌水のタイミングと量を調整できます。比較条件下では、この精密な灌水によって、水の使用量を最大40%抑えながら収量を維持した結果も得ています。実際の効果は、作物、施設、気候、管理条件によって異なるため、日本での導入時には個別に検証します。

栽培条件を毎回ゼロから決めない
自動化のもう一つの役割は、栽培方法を標準化することです。
管理システムには、80種類以上の標準栽培手順と、種まきから収穫までを管理する100種類以上の栽培レシピを登録できる構成があります。
作物ごとに、照明の波長と強さ、点灯時間、灌水量、養分、pH・EC、温湿度、CO₂などを設定し、生育段階に応じて変更します。
登録した条件をそのまま繰り返すだけではありません。実際の生育、収穫量、品質、植物の反応を確認しながら、日本の水質、気候、販売規格に合わせて調整します。
栽培条件を記録しておけば、担当者の経験だけに頼らず、前回の結果を次の栽培へ反映できます。
通信が切れても、基本運転は止めない
植物工場を遠隔で確認できることは便利ですが、栽培設備そのものが常にインターネットへ依存していると、通信障害が運転停止につながります。
グリーンシェルターに組み合わせる管理システムは、施設内に栽培条件と制御機能を保持し、インターネットへ接続できない状況でも、基本的な監視、制御、記録を継続できる構成です。
通信が利用できる場合には、遠隔監視、報告、異常通知などに活用します。栽培を続けるための制御と、外部から確認するための通信を分けることで、山間部や通信環境が不安定な場所でも運用しやすくします。
異常時は、安全側へ止める
自動制御は、通常運転を続けるだけの仕組みではありません。
ポンプ停止、タンク水量の低下、温度上昇、CO₂濃度の異常、センサーの不具合などを検知した場合には、設備を安全側へ止め、管理者へ通知する必要があります。
例えば、タンクの水が不足した状態でポンプを動かし続ければ、空運転による故障につながります。CO₂濃度が高くなれば、供給を停止し、警報や換気を作動させます。
通常時の制御だけでなく、停止条件、警報、予備電源、手動操作への切り替えまで含めて計画することが、安定運転には欠かせません。

記録は、品質を説明する資料になる
栽培記録は、設備を改善するためだけのものではありません。
種子の種類、植付日、使用した水や養分、温湿度、照明、灌水、収穫日などをロットごとに残すことで、その作物がどのような環境で育ったのかを説明できます。
レストラン、宿泊施設、専門店、研究用途などへ供給する場合には、生産履歴や品質管理の記録が、商品の信頼性にもつながります。
管理システムでは、環境や灌水の記録を収穫ロットと結びつけ、トレーサビリティや品質管理へ活用できる構成も用意します。
自動化しても、人が見るものは残る
照明、灌水、空調、除湿、CO₂供給を自動化しても、植物工場から人の仕事がなくなるわけではありません。
種まき、植付け、収穫、選別、包装、清掃、消耗品交換に加え、センサーの清掃や校正も必要です。
管理画面ではポンプが動いていても、点滴口の一部が詰まり、水が届いていない可能性があります。温湿度が設定範囲内でも、栽培壁の一部に空気のよどみがあれば、葉の状態に差が生じます。
そのため、葉の色や張り、根の状態、点滴の流れ、設備の音、においなどを実際に確認し、センサーの数値と照らし合わせます。
AIと自動制御が担うのは、24時間の監視、繰り返し操作、数値の比較、異常の早期発見です。人は、植物の変化を見て判断し、設備を清掃・整備し、収穫物の品質を確認します。
自動化は、人を植物から遠ざけるためではありません。
日常的な監視や操作を設備へ任せ、人が植物、品質、保守、販売計画に集中するための仕組みです。
グリーンシェルターとグリーンシェルターMAXでは、外側の構成は異なりますが、環境と植物の反応を測り、その情報を制御へ戻す考え方は共通しています。
特にグリーンシェルターMAXでは、商業生産や品質管理を想定し、複数区画、栽培レシピ、遠隔監視、記録を組み合わせた運用を計画します。
次回は、植物工場で育てた作物の味や栄養について考えます。
糖度、ビタミン、香り、食感などは、光、水、養分、温度、収穫時期などによって変化します。ただし、植物工場で育てれば、必ず味や栄養価が高くなるわけではありません。
作物や品種、試験条件、比較対象を確認しながら、どのような違いが生まれる可能性があるのかを整理していきます。