【第26回】植物工場の空気は、どう整えるのか
温度、湿度、CO₂、風を一つの環境として考える
こんにちは。UnderSOIL(アンダーソイル)の野口です。
前回は、植物工場の照明についてご紹介しました。
照明を点灯すると、植物の光合成が始まり、根から吸い上げる水の量や、葉から放出する水分も変化します。同時に、照明から出る熱によって室温が上がり、空調や除湿の負担も大きくなります。
植物工場では、温度、湿度、CO₂、空気の流れを別々に管理することはできません。
大切なのは、室内全体の数字をそろえることではなく、植物の葉の周囲に、生育しやすい空気の環境をつくることです。
今回は、グリーンシェルターとグリーンシェルターMAXで、温度、湿度、CO₂、空気の流れをどのように組み合わせるのかをご紹介します。
温度、湿度、CO₂、風は一緒に動く
室温を下げるために冷房を動かすと、温度だけでなく湿度も変わります。
植物へ風を送ると、葉の周囲にたまっていた熱や水分が移動し、蒸散が進みやすくなります。CO₂も葉の表面まで届きやすくなります。
一方で、照明を強くすると光合成が活発になりますが、発熱と蒸散も増えます。除湿が追いつかなければ湿度が上がり、空調を強くすれば葉の周囲が乾きすぎることもあります。
そのため、植物工場では一つの設備だけを動かすのではなく、照明、灌水、空調、除湿、送風、CO₂を一つの環境として調整します。

温度と湿度は、合わせて見る
植物には、作物や生育段階ごとに育ちやすい温度帯があります。
温度が低すぎれば生育や吸水が鈍くなり、高すぎれば呼吸や蒸散が増え、植物へ負担がかかります。
ただし、温度だけが適切でも、湿度が大きく外れていれば、植物が健全に育つとは限りません。
空気が湿りすぎると、葉から水分を放出しにくくなります。反対に乾きすぎると、葉から水分が急速に失われ、根からの吸水が追いつかなくなることがあります。
そこで、温度と湿度を組み合わせたVPDという考え方を使います。
VPDは、葉から空気中へ水分が移動しやすい状態にあるかを見るための指標です。同じ湿度でも、温度が違えば植物の乾き方は変わります。
グリーンシェルターでは、作物、品種、生育段階、照明時間に合わせ、温度と湿度の管理範囲を設定します。

栽培壁全体へ、穏やかに空気を届ける
管理画面に表示される室温が適切でも、垂直栽培壁のすべての場所が同じ環境とは限りません。
照明に近い上部、床に近い下部、栽培壁の端部、空調の吹出口付近では、温度や湿度に差が生じます。
植物が成長して葉が重なると、栽培壁の内側へ空気が入りにくくなり、湿気や熱がこもることもあります。
このため、空気は強く一方向へ吹きつけるのではなく、栽培壁の上部、中央、下部、表面、裏面へ穏やかに行き渡らせます。
適度な空気の流れがあれば、葉の周囲にたまる熱や湿気を移動させ、CO₂も届けやすくなります。
反対に、風が強すぎると葉を傷めたり、植物を乾燥させたりする可能性があります。必要なのは強い風ではなく、よどみをつくらない空気の流れです。
曲面形状は、空気の循環を助ける
グリーンシェルターMAXは、ヴォールト状のFRP外殻と曲面内壁を採用しています。
暖められた空気は上へ移動するため、曲面に沿って流れやすくなります。直角の隅が少ないことも、熱や湿気が一か所に滞留しにくい環境づくりにつながります。
ただし、曲面形状だけで施設全体の空気が均一になるわけではありません。
曲面による自然な空気の動きを利用しながら、空調、除湿、循環ファンを組み合わせ、栽培壁全体へ空気を分配します。
さらに、MLI断熱によって外部との熱の出入りを抑え、空調設備だけに負担が集中しにくい構成とします。

CO₂は、光合成に必要な材料
植物は、光、水、CO₂を使って光合成を行います。
密閉性の高い植物工場では、照明が点灯して植物が活発に光合成すると、施設内のCO₂が不足することがあります。
グリーンシェルターでは、CO₂濃度を測定し、照明、温度、作物の状態に合わせて供給量を調整します。
ただし、CO₂だけを多く供給しても、光、水、養分、温度のいずれかが不足していれば、十分には利用されません。
必要な時間に必要な量を供給し、空気の流れによって栽培壁全体へ届けることが重要です。
また、CO₂は高濃度になると作業者にとって危険です。供給設備には、濃度センサー、警報、換気、供給停止装置を組み合わせ、安全に運用できる計画とします。
除湿は、病気と結露を防ぐためにも必要
植物が密集する施設では、葉から放出された水分が室内へ蓄積します。
特に照明を消したあとに室温が下がると、湿度が急に上がり、冷たい外殻や配管などに結露が生じることがあります。
湿った状態が長く続けば、葉が乾きにくくなり、病害が発生しやすい環境につながります。
そのため、照明点灯中だけでなく、消灯前後や灌水後の湿度変化も確認し、必要なタイミングで除湿します。
グリーンシェルターMAXでは、MLI断熱によって内側表面の急激な温度低下を抑えます。さらに、空気の流れと除湿を組み合わせ、結露した水分が栽培壁へ落ちにくいように、曲面形状や排水経路も計画します。
曲面だから結露しないのではなく、断熱、除湿、送風、排水を組み合わせて管理します。
グリーンシェルターとMAXの違い
グリーンシェルターとグリーンシェルターMAXでは、植物を育てる内部環境の基本的な考え方は共通しています。
グリーンシェルターは、外部に土と芝を取り入れ、農園や里山の景観になじませる植物工場です。
土や植生は外気温の変化を和らげる一方で、土の含水状態、排水、積雪、植栽管理まで考える必要があります。
グリーンシェルターMAXは土を載せず、FRP外殻、MLI断熱、空調、除湿、CO₂、送風など、生産環境と設備管理を優先します。
外部植栽の管理を持たないため、商業生産、品質管理、研究、設備保守を中心に運用しやすい構成です。

数字と植物の状態を一緒に見る
温度、湿度、CO₂が設定範囲に入っていても、すべての植物が同じ状態とは限りません。
葉の色や張り、葉先の傷み、栽培壁の上部と下部の生育差を確認し、センサーの数値と照らし合わせます。
自動制御は、人に代わってすべてを判断する仕組みではありません。
環境の変化を早く見つけ、植物への影響が大きくなる前に調整するための設備です。
UnderSOILでは、何を、どの時期に、どの品質で生産するのかを確認してから、断熱、空調、除湿、送風、CO₂、灌水を組み立てます。
植物工場の環境管理で大切なのは、室温や湿度の数字をそろえることだけではありません。
葉の周囲へ光、CO₂、適度な風を届け、根から吸い上げた水を無理なく蒸散できる環境を、栽培壁全体につくることです。
次回は、植物の状態を見ながら環境を変える、センサーと自動制御についてご紹介します。
どの数値を測り、どこまで自動化し、最後に人が何を確認するのか。植物工場における自動化と日常管理の役割を整理していきます。