【第25回】植物工場の照明は、明るければよいのか
光を、照明器具だけでなく施設全体で使い切る
こんにちは。UnderSOIL(アンダーソイル)の野口です。
前回は、グリーンシェルターとグリーンシェルターMAXで、水と養分をどのように根元へ届けるのかをご紹介しました。
植物が育つためには、水、養分、空気に加えて、光が必要です。
植物工場では、屋外のように天候や季節へ左右されず、照明によって植物が受ける光を調整できます。
ただし、照明を強くすれば、それだけ植物がよく育つわけではありません。光が不足すれば生育が遅くなりますが、強すぎる光は植物へ負担をかけ、電力消費や施設内の発熱も増やします。
植物工場の照明で大切なのは、単純な明るさではありません。
光の量、光の波長、照射時間、栽培壁への届き方を組み合わせ、さらに内壁、断熱、空調、除湿まで含めて一つの生育環境として設計する必要があります。
グリーンシェルターとMAXでは、光の基本は共通する
UnderSOILでは、外部に土と芝を取り入れ、農園や里山の景観になじませる植物工場をグリーンシェルター、土を載せず、外殻、断熱、環境制御、生産設備を優先する植物工場をグリーンシェルターMAXとして区分しています。
外側の構成は異なりますが、垂直栽培壁へ光を届ける基本的な考え方は共通しています。
グリーンシェルターとグリーンシェルターMAXでは、植物を平らな棚だけに並べるのではなく、栽培壁を立体的に配置します。
そのため、照明器具の真下だけを明るくしても十分ではありません。栽培壁の上部、中央、下部、左右の端部、さらに両面へ光を届ける必要があります。
特にグリーンシェルターMAXは、FRPの曲面外殻、MLI断熱、反射性のある曲面内壁を組み合わせています。照明器具の性能だけに頼らず、施設の形そのものを使って、光と熱を効率よく管理する植物工場です。

光の強さと、一日に受ける光の量を分けて考える
植物が受ける光を考えるときには、その瞬間の光の強さと、一日を通して受ける光の総量を分けて考えます。
植物の光合成に使われる光の強さを確認する指標の一つが、PPFDです。
これは、植物の葉がある位置へ、一秒間にどれだけ光が届いているかを見るためのものです。
一方、一日を通して植物が受けた光の総量は、DLIで整理します。
同じ強さの照明でも、8時間点灯する場合と16時間点灯する場合では、植物が一日に受ける光の量が変わります。
そのため、照明の出力だけでなく、何時間点灯するのかを合わせて設定します。
必要な光の量は、作物や生育段階によっても異なります。
発芽したばかりの苗、葉が広がり始めた段階、収穫前の植物では、同じ光量が適しているとは限りません。育苗、生育、仕上げの段階に合わせて、光の強さと照射時間を調整します。
光は、照明器具の近くではなく、葉の位置で測る
照明器具に記載された性能だけでは、実際に植物へ届いている光の状態までは分かりません。
照明の近くでは十分な光量があっても、栽培壁の下部や左右の端部では、光が不足していることがあります。
また、植物が成長して葉が広がると、上の葉が下の葉を覆い、栽培開始時とは光の届き方が変わります。
そのため、光の測定は照明器具の近くではなく、実際に葉が広がる位置で行います。
栽培壁の上部、中央、下部、左右の端部を測り、極端に明るい場所や暗い場所がないかを確認します。
グリーンシェルターMAXで使用する垂直栽培壁は、1基に720の栽培ポートを持つ両面型です。
多くの植物を配置できる一方で、すべてのポートへ光を均等に届けなければ、ポート数を実際の収穫量へつなげることはできません。

作物の成長段階に合わせて、光を変える
植物が利用する光には、波長の違いがあります。
人の目には白く見える光でも、その中には青、緑、赤、遠赤色など、異なる波長の光が含まれています。
青色系の光は、葉の形や茎の伸び方などに関係します。赤色系の光は光合成に利用されやすく、緑色の光は葉の内部や重なった葉へ届く役割を持ちます。
遠赤色を含む光は、植物の伸び方や形へ影響するため、作物と照射方法を確認しながら使います。
グリーンシェルターMAXでは、光の波長を固定するのではなく、育てる作物や生育段階に合わせて調整できる照明を組み合わせます。
育苗中の植物と、収穫前の葉物野菜では、必要な光の量も波長の組み合わせも同じではありません。
作物の形、葉の色、香り、収穫時の大きさを確認しながら、光量、波長、照射時間を調整します。

24時間照らせば、収穫量が増えるとは限らない
照明設備があるからといって、24時間連続して光を当てればよいわけではありません。
植物にも、光を受ける時間と暗くなる時間があります。
作物によっては、明るい時間と暗い時間の長さが、葉の成長、茎の伸び、花芽の形成などへ影響します。
点灯時間を長くすれば、一日の光量は増えます。しかし、植物が利用できる量を超えて照射しても、電力がそのまま収穫量へ変わるわけではありません。
また、照明時間が長くなれば、照明による発熱、植物からの蒸散、空調、除湿の負担も増えます。
照明時間は、一日に必要な光量を確保しながら、植物の生育段階と施設全体の運転を見て設定します。
曲面内壁が、外れた光を植物側へ戻す
グリーンシェルターMAXでは、反射率81%の曲面内壁を採用しています。
照明から出た光のすべてが、最初から植物の葉へ当たるわけではありません。
栽培壁の間を通過する光、天井へ向かう光、床や側面へ外れる光もあります。
グリーンシェルターMAXは、こうした光を曲面内壁で反射させ、再び栽培壁側へ戻します。
照明器具を増やすだけではなく、一度植物から外れた光も利用することで、光子利用を最大40%高めます。
光子利用とは、照明から出た光を、どれだけ植物へ有効に届けられるかという考え方です。
栽培壁から外れた光を植物側へ戻すことで、同じ栽培面へ必要な光を届ける際に、照明の台数や出力だけに頼らない計画ができます。
ただし、反射率の高い内壁があれば、どの位置でも自動的に同じ光量になるわけではありません。
照明の位置、角度、栽培壁の間隔、植物の大きさを合わせて設計し、運転開始後も実際の葉の位置で光を測定します。
光を有効利用すると、発熱も抑えやすくなる
照明を増やすと、植物へ届く光だけでなく、施設内で発生する熱も増えます。
照明から発生した熱は、室温を上げるだけではありません。植物の蒸散を増やし、施設内の湿度や除湿負荷にも影響します。
必要な光を少ない無駄で植物へ届けられれば、照明の出力や台数を抑えやすくなります。
照明の電力を抑えることは、照明そのものの電気代だけでなく、発熱を処理する空調や、植物から出る水分を処理する除湿の負担を軽くすることにもつながります。
植物工場では、照明だけを省エネルギー化するのではなく、照明によって変化する温度、湿度、灌水まで一緒に考える必要があります。
FRP外殻とMLI断熱で、光と熱を施設全体から考える
グリーンシェルターMAXは、FRPの曲面外殻にMLI断熱を組み合わせています。
MLIは、複数の層を使って熱の移動を抑える断熱の仕組みです。
外部から入る熱と内部から逃げる熱を抑えることで、照明、空調、除湿を安定して運転しやすい内部環境をつくります。
さらに、ヴォールト状の曲面形状が施設内の空気の流れをつくり、天井付近へ熱や湿気が一か所に滞留しにくい構成としています。
グリーンシェルターMAXは、照明から発生する熱を空調設備だけで処理するのではありません。
照明、反射内壁、断熱外殻、空気の流れを組み合わせ、施設全体で熱負荷を抑えます。
FRP外殻、MLI断熱、曲面形状を組み合わせた比較条件では、一般的な環境制御型施設に比べ、エネルギー消費を64%抑えています。
実際の削減量は、設置地域の外気温、施設規模、栽培温度、照明時間、作物、空調設備によって変わります。
日本で導入する際には、建設地の気象条件、電力契約、栽培計画をもとに、年間の消費電力と運転費を個別に試算します。

グリーンシェルターMAXが、光を効率よく使える理由
グリーンシェルターMAXの照明計画には、植物を明るく照らす以上の役割があります。
垂直栽培壁に合わせて照明を配置することで、限られた床面積を立体的に利用できます。
反射率81%の曲面内壁が、栽培壁から外れた光を植物側へ戻します。
光子利用を最大40%高めることで、照明の台数や出力だけに頼らず、栽培面へ必要な光を届けます。
FRP外殻とMLI断熱が外部との熱の出入りを抑え、曲面形状が施設内の空気を動かします。
照明の出力を作物の生育段階に合わせて調整することで、育苗から収穫まで同じ光を当て続けるのではなく、必要な時期に必要な光を使います。
こうした仕組みを組み合わせることで、照明の電力だけでなく、空調、除湿を含めた施設全体の負担を抑えながら、高密度の垂直栽培を行います。
葉が育つと、光の環境も変わる
栽培開始時には小さかった葉も、生育が進むにつれて広がり、互いに重なります。
苗の段階では光が十分に届いていても、収穫前には上の葉が光を遮り、内側や下側の葉が暗くなることがあります。
そのため、照明の設定は、栽培開始時に一度決めて終わりではありません。
植物の成長に合わせて照明出力を変える、栽培壁と照明の距離を調整する、植栽間隔や収穫方法を見直すなど、生育状態に応じて調整します。
720の栽培ポートへ植物を配置できても、すべての葉へ適切な光が届かなければ、実際の商品重量や品質にはつながりません。
ポート数は、生産計画の出発点です。
光、水、養分、温度、湿度、空気の流れが組み合わさって、初めて安定した収穫につながります。
作物と販売計画を決めてから、照明を設計する
植物工場の照明は、先に設備を選び、あとから育てる作物を当てはめるものではありません。
何を育てるのか、どの大きさで収穫するのか、葉の色や香りをどのように仕上げるのか、年間に何回栽培するのかを確認したうえで、光量、波長、照射時間、照明配置を決めます。
葉物野菜、ハーブ、小型果菜、花、育苗では、必要な光の条件も植物の形も異なります。
UnderSOILでは、作物と販売計画を確認し、垂直栽培壁、照明、反射内壁、断熱、空調、灌水を一つの生育環境として組み立てます。
植物工場の照明で大切なのは、最も明るい器具を選ぶことではありません。
必要な光を、必要な時間に植物へ届け、曲面内壁で再び栽培壁側へ戻し、施設全体で無駄なく利用することです。
グリーンシェルターMAXは、照明器具の性能だけでなく、光を受ける植物、光を反射する内壁、熱を抑える外殻、空気を動かす設備までを一体で設計します。
次回は、温度、湿度、CO₂、空気の流れについてご紹介します。
照明によって光合成が進むと、水の吸収や蒸散も変化します。照明、水、温度、湿度、空気を別々に管理するのではなく、植物を取り囲む一つの環境として考えていきます。