#植物工場説明資料

【第22回】植物工場の中で、根をどう育てるのか

生きた培地を使う、壁面点滴栽培の仕組み

こんにちは。UnderSOIL(アンダーソイル)の野口です。

 前回は、グリーンシェルターとグリーンシェルターMAXについて、施設の構成や栽培規模の違いをご紹介しました。

 植物工場というと、壁一面に並ぶ野菜や、紫色に光る照明へ目が向きます。しかし、植物が安定して育つかどうかを左右するのは、目に見える葉だけではありません。

 重要なのは、その裏側にある根の環境です。

 根へ水と養分を届けることに加え、酸素を確保し、培地の水分を調整し、植物と微生物が働ける状態を維持する。グリーンシェルターでは、こうした根の周囲の環境を含めて栽培設備を考えます。

土でも水だけでもない、壁面の栽培環境

 グリーンシェルターの壁面栽培では、植物を一株ずつ栽培ポートへ配置します。

 栽培壁の内部には、一般的な畑の土をそのまま詰めるのではなく、縦方向の栽培に適した専用の培地を保持します。培地には植物の根が伸びるための空間があり、水分と空気を保ちながら、有用な微生物が活動できる環境をつくります。

 この方式は、根を養液に浸す一般的な水耕栽培とも、根を空中へ露出させて霧状の養液を吹き付けるエアロポニック栽培とも異なります。

 培地を使いながら、点滴灌水によって水と養分を根元へ届ける、壁面型の栽培方法です。現在の栽培壁は、一基に720か所の栽培ポートを備える構成があり、各ポートへ個別に水と養分を供給する仕組みになっています。

一株ずつ栽培ポートへ配置し、壁面全体を栽培空間として使います。

水と養分を、根元へ直接届ける

 壁面栽培では、栽培壁の上部や内部に設けた配管から、各植物の根元へ水と養分を届けます。

 壁全体へ大量の水を流すのではなく、植物の状態や生育段階に合わせて、必要な場所へ必要な量を供給する考え方です。

 また、培地を常に水浸しにしてしまうと、根の周囲の酸素が不足しやすくなります。反対に乾燥させすぎれば、根にも微生物にも負担がかかります。

 そのため、灌水と灌水の間に適度な乾湿の変化をつくりながら、培地の中へ水分と空気の両方を確保します。グリーンシェルターでは、根元へ直接点滴する方式と、植物の状態を測るセンサーを組み合わせ、灌水のタイミングを調整する構成も用意されています。

 ただし、どの作物にも同じ水量や同じ間隔で灌水できるわけではありません。葉物野菜、ハーブ、果菜類では、根の広がり方や水の吸い方が異なります。栽培する品種、生育段階、温度、湿度、照明時間まで確認して設定します。

栽培壁の内部に培地を保持し、植物ごとの根元へ水と養分を届けます。

「生きた培地」とは何か

 この壁面栽培で特徴的なのが、微生物が活動できる培地を使うことです。

 植物の根の周辺には、菌根菌や植物の生育を助ける細菌など、さまざまな微生物が存在します。こうした根の周囲の領域を「根圏」と呼びます。

 有用な微生物の中には、植物が利用できる養分を増やしたり、根の成長を助けたり、環境変化への耐性に関係したりするものがあります。植物生育促進根圏細菌についても、養分の利用、植物ホルモンの調整、病原菌への抵抗などに関わる可能性が研究されています。

 ただし、微生物を加えれば必ず収量や品質が上がるわけではありません。

 菌が培地へ定着できるか、作物との相性がよいか、pHや養分濃度が適切かによって結果は変わります。菌根菌の接種効果についても、作物や土壌環境によって大きくばらつくことが確認されています。

 つまり、「微生物がいるから自然で安心」という単純な話ではありません。水分、酸素、養分、温度、衛生状態を管理し、有用な微生物が働きやすい環境を維持することが必要です。

根の周囲では、水や養分だけでなく、酸素や微生物の状態も植物の生育に関わります。

水耕栽培にも、微生物は存在する

 ここで注意したいのが、「水耕栽培は無菌で、生きた培地だけに微生物がいる」という説明にはできないことです。

 実際の水耕栽培でも、植物の根、養液、配管、タンクなどには微生物の集まりが形成されます。商業用の水耕・アクアポニック施設を調査した研究でも、作物、養液、設備、作業環境に、それぞれ異なる微生物群が存在することが確認されています。

 違いは、微生物が「いるか、いないか」ではありません。

 一般的な水耕栽培では、養液の成分を正確に管理し、均一で安定した成長を目指します。一方、グリーンシェルターの壁面栽培では、培地の中に根圏環境をつくり、有用な微生物の働きも栽培管理へ取り入れます。

 どちらが全面的に優れているというものではなく、育てる作物、求める品質、生産量、衛生管理、設備の運用方法によって選ぶべき方式が変わります。

 近年では、水耕栽培でも有用な根圏微生物を活用し、作物の生育やストレス耐性を高める研究が進んでいます。植物工場の栽培方式は、「土か水か」という単純な二択ではなくなっています。

種から収穫まで、同じ場所で育てる

 グリーンシェルターの栽培ポートでは、種から収穫まで、同じ培地の中で植物を育てる構成も可能です。

 途中で何度も植え替えなければ、根を傷める機会を減らし、定植作業の負担を抑えられます。また、根の周囲に形成された微生物環境を、栽培の途中で大きく変えずに維持できます。

 ただし、すべての作物を壁面で育てるわけではありません。

 葉物野菜やハーブ、小型の果菜類は壁面栽培と組み合わせやすい一方、大きな実をつける作物や、長く伸びる作物には、横型ラックや棚、支柱を使った栽培の方が適する場合があります。

 グリーンシェルターでは、壁面栽培だけに固定せず、作物に合わせて多段ラックや平面栽培を組み合わせます。

生きた環境だからこそ、管理が必要になる

 生きた培地を使う方式には、利点だけでなく注意点もあります。

 有用な菌だけでなく、植物へ悪影響を与える菌が入り込む可能性もあります。培地が過湿になれば根腐れが起こりやすくなり、灌水設備が詰まれば一部の植物へ水が届かなくなります。

 培地の状態、配管、点滴口、植物の根、葉の変色などを日常的に確認し、異常を早く見つける必要があります。

 自動制御を取り入れても、植物を見なくてよいわけではありません。設備が示す数値と、実際の葉や根の状態を合わせて判断することが、安定した栽培には欠かせません。

 グリーンシェルターの特徴は、単に多くの植物を壁へ並べることではありません。建物の中に、根、水、養分、酸素、微生物が働く環境をつくり、それを管理しながら植物を育てることにあります。

 次回は、一基720ポートの栽培壁を使い、実際にどの程度の植物を育てられるのかをご紹介します。設備上のポート数と、安定して育てられる株数、そして商品として収穫できる量は同じではありません。植物工場の「栽培密度」を、数字の意味から整理していきます。

Share on