【第16回】土屋根建築と宿泊施設の相性
こんにちは。UnderSOIL(アンダーソイル)の野口です。
今回は「泊まる理由」になる建築について話したいと思います。
宿泊施設において、建物は単に寝るための場所ではありません。
旅館やホテル、リゾート施設、自然宿、オーベルジュ、別荘型の宿泊棟では、建物そのものが滞在体験の一部になります。料理や景色、温泉、サービスが大切なのはもちろんですが、客室に向かう道、建物の外観、窓から見える景色、室内で過ごす時間まで含めて、宿泊施設の印象はつくられていきます。
UnderSOILが提案する、アースシェルを用いた土中建築やFRP草屋根は、こうした宿泊体験をつくるうえで相性のよい建築だと考えています。
建物が景観になじみながら、ただ目立つだけではない存在感を持つ。
その土地で過ごす時間そのものを印象づける。
土屋根建築には、宿泊施設にとって大切な役割があります。

建物そのものが、滞在の記憶になる
宿泊施設では、建物に入る前から体験が始まっています。
庭や森の中を歩いて客室へ向かうとき、斜面や植栽の中に建物が見えてくるとき、扉を開けて室内に入るとき。こうした場面は、宿泊者の記憶に残りやすい部分です。
土屋根建築や土中建築は、周囲の景観と一体になりながら、一般的な箱型の建物とは違う印象をつくることができます。土と植物に包まれた曲面の建物は、自然の中に置いたときに強い主張をしすぎず、それでいて記憶に残る存在になります。
客室を増やすだけではなく、敷地の中に「ここで過ごしたい」と感じられる場所をつくる。
土中建築は、そうした宿泊計画と相性があります。

旅館・ホテルの離れとして考える
土屋根建築は、旅館やホテルの離れ、リゾート施設の客室棟、自然宿の特別室などに向いています。
本館とは別に、庭や森、斜面、湖畔、農園などを活かして客室を配置する。既存施設の中に、通常の客室とは違う印象の宿泊棟を加える。自然環境を活かした敷地で、静かに滞在できる独立型の客室をつくる。
こうした計画では、建物が景観から浮かないことが大切です。
ただし、景観になじむだけで印象に残らなければ、宿泊施設としての魅力にはつながりにくい。
土屋根建築は、その中間にあります。
目立ちすぎず、埋もれすぎない。
その土地の雰囲気を壊さずに、建物としての特別感をつくれるところに面白さがあります。

その土地に合わせて計画する
宿泊施設に土中建築を取り入れる場合、同じ建物をどこにでも置けばよいという話ではありません。
敷地の向き、眺望、日当たり、風の抜け方、隣接する建物との距離、宿泊者の動線、管理動線を見ながら、その土地に合う配置を考える必要があります。アースシェルを用いた土中建築では、建物の外側に土や植物が関わるため、外構や植栽との関係も重要になります。
たとえば、庭園の一部として見せるのか、森の中に静かに置くのか、斜面を活かして景色に開くのか。
同じ土屋根建築でも、敷地の使い方によって印象は大きく変わります。
宿泊施設にとって大切なのは、建物だけが目立つことではありません。
その土地に泊まる意味を、建築と景観の両方でつくることです。
宿泊施設として使うなら、運営も考える
宿泊施設として計画する場合、外観だけで進めるわけにはいきません。
客室として使うなら、ベッドの配置、洗面、トイレ、浴室、空調、換気、照明、音、眺望、プライバシーを考える必要があります。複数棟を配置する場合は、管理棟からの距離、清掃動線、リネン交換、夜間の安全性、外灯計画、スタッフの移動も関係します。
土中建築では、さらに外側の土、植栽、排水、草屋根の管理も計画に入ります。
見た目の印象だけでなく、使い続けやすい客室にすることが大切です。
当社は建築設計施工会社として、土中建築を単なる珍しい建物ではなく、宿泊施設として実際に使える建築として考えています。

宿泊施設に「泊まる理由」をつくる
宿泊施設では、建物の印象がそのまま滞在の記憶になることがあります。
どんな場所で過ごしたか、部屋に入ったときにどう感じたか、朝起きたときに窓の外に何が見えたか。そうした記憶が、宿泊施設の価値につながります。
土屋根建築やFRP草屋根は、変わった形をつくるためだけのものではありません。
土地の景色を活かしながら、宿泊体験そのものを印象づけるための選択肢です。
旅館やホテルの離れとして、リゾート施設の客室棟として、自然宿や里山施設の滞在空間として。
アースシェルを用いた土中建築は、宿泊施設に「泊まる理由」をつくる建築になり得ます。
建物を増やすのではなく、記憶に残る場所をつくる。
宿泊施設にとって、これは大切な視点だと考えています。